【フィンランド紀行文】〜フィンランドサウナ編〜Löyly(ロウリュ)
テラスの重い扉を開けると、そこには独特の匂いがする真っ暗なサウナがあった。
あっちはアメリカ人、こっちはインド人、向こうはイタリア人と、ともかく世界各国の旅行者で溢れているのが、Löyly(ロウリュ)である。どのエリアも世界各国の言葉が飛び交っていて賑やかだ。
しかし、スモークサウナは神聖な教会のようだった。開けられるのを拒むかのような重い扉。選ばれし者のみを受け入れるサウナ。ロウリュで唯一の静かな空間であった。それぞれが蒸気を楽しみ、匂いを感じていた。私は転けないよう注意しながら、真っ暗な空間を歩き、大男の横の僅かなスペースに座った。大男は目を瞑り、私が横切っても、びくともしなかった。
スモークサウナは身体を優しく内側から温めてくれるようだった。初めてのスモークサウナに満足した。
何分かたった後、大男は目をゆっくり開け、私に話しかけた。
「どこから来た?もっとスチームがいるか?」
私が日本から来たことを告げ、こくりと頷くと、大男は立ち上がり、ストーブの前に立った。
大男は、長いラドルで狙った場所に水をかけた。水は、放物線を描き、生き物のように飛び跳ねた。すると、優しい蒸気が天井から降り注ぎ、私を包んだ。
大男は私の横に座り直し、ニッと笑った後、再び目を瞑り、動かなくなった。