【フィンランド紀行文】〜フィンランドサウナ編〜Löyly(ロウリュ)
テラスの重い扉を開けると、そこには独特の匂いがする真っ暗なサウナがあった。
あっちはアメリカ人、こっちはインド人、向こうはイタリア人と、ともかく世界各国の旅行者で溢れているのが、Löyly(ロウリュ)である。どのエリアも世界各国の言葉が飛び交っていて賑やかだ。
しかし、スモークサウナは神聖な教会のようだった。開けられるのを拒むかのような重い扉。選ばれし者のみを受け入れるサウナ。ロウリュで唯一の静かな空間であった。それぞれが蒸気を楽しみ、匂いを感じていた。私は転けないよう注意しながら、真っ暗な空間を歩き、大男の横の僅かなスペースに座った。大男は目を瞑り、私が横切っても、びくともしなかった。
スモークサウナは身体を優しく内側から温めてくれるようだった。初めてのスモークサウナに満足した。
何分かたった後、大男は目をゆっくり開け、私に話しかけた。
「どこから来た?もっとスチームがいるか?」
私が日本から来たことを告げ、こくりと頷くと、大男は立ち上がり、ストーブの前に立った。
大男は、長いラドルで狙った場所に水をかけた。水は、放物線を描き、生き物のように飛び跳ねた。すると、優しい蒸気が天井から降り注ぎ、私を包んだ。
大男は私の横に座り直し、ニッと笑った後、再び目を瞑り、動かなくなった。
【フィンランド紀行文】〜フィンランドサウナ編〜UUSI SAUNA(ウーシサウナ)
「俺について来い!ロウリュはこうやってやるんだ!」
レバーを動かすと、サウナストーブが大きな口を開けた。日本では見たことないタイプのストーブだ。ストーブ上部を開けると、そこに大量のストーンが積まれている。
「ここに水を入れるんだ。ミックスサウナには水風呂もあるぞ!」
ミックスサウナとは男女共用サウナのことらしい。そこには、アヴァントバスという名の小さなバスタブがあり、温度は6℃を示していた。
ここはUUSI SAUNA(ウーシサウナ)。住宅街に突如現れる、比較的新しいサウナ施設だ。一見レストランかバーにしか見えない。しかし日本で何度も見た、特徴的なネオンサインがあったので間違いない。私は恐る恐る中に入った。
「サウナ、オッケー?タオルプリーズ」
(片言にも満たない英語力だが、意外と伝わるものだ!)
開店と同時ということもあってか、客はほとんどおらず、オーナーがサウナをひと通り案内してくれた。サウナはレストラン、バーエリアの奥にあった。ひと通りの説明を聞き、マリメッコのタオルを受け取って男性サウナへ向かった。
「Have a nice afternoon!」
レバーを動かし、長いラドルで、オーナーがして見せたように雑に水を注ぎ込んだ。ストーブは肉食動物の鳴き声のような音をあげ、強烈な蒸気を吐いた。一気に汗が吹き出し、あらゆる負の感情を一気に流してくれた。
そこでデザインを学びに来ている日本の学生に会った。よくここに来るのかと聞くと、アパートにサウナがあるからたまにしか来ないと言った。フィンランドすごいなあ。一緒に中庭で外気浴をした。
「フィンランドって、冬はまるで別の国ですよ。夏の今はみんな陽気だけど、冬は家に篭ってます。なにせ、日もほとんど登りませんから。陽の光を浴びないせいか、冬のフィンランドって自殺者も多いんです。でも、冬のフィンランドは本当に綺麗なんです。」
学生はタバコをふかしながら言った。サンタクロースの国フィンランドの冬も、この目で見てみたい。
そのときは食べ損ねたウーシサウナのサーモンスープを食べに訪れようと思う。
(※日照時間と自殺の因果関係はないらしい。)
【フィンランド紀行文】〜フィンランドサウナ編〜ALLAS SEA POOL(アッラス・シー・プール)
北極海を通る13時間のフライトから解放され、ヘルシンキ・ヴァンター国際空港に降り立った私は、合計24時間以上の移動を経て、サウナの聖地フィンランドへと足を踏み入れた。時刻は5時55分、天気は雨、気温は16℃。半袖のTシャツでは、かなり寒く感じた。フィンランドの8月は夏の終わり頃。日本の秋のような季節らしい。フィンランドの空気を肌で感じながら、シンプルで北欧らしい空港を抜け、早速ヘルシンキのAllas Sea Pool(アッラス・シー・プール)へと向かった。
「あなたはラッキーよ。」
アッラスシープールのサウナで私の隣に座っていた大柄な女性が言った。サウナはバルト海側が大きなガラス張りになっており、私が座ったタイミングで大きな旅客船が港に入ってきたのだ。同時に、その大柄な女性は赤いボタンを押した。
ジュワ〜…パチパチパチパチ…
それはロウリュするためのボタンだった。心地よい蒸気が私を包み込み、疲れを癒した。ストーブのパワーは強く、その後も各自が自分のタイミングでボタンを押すのだが、ストーブはどんなときも優しい音を奏で、軽やかな蒸気を吐いた。ある者は、会話を楽しみ、ある者は己と向き合い瞑想している。子どもから大人まで、それぞれが好きに楽しんでいる。それがフィンランドのサウナなのだ。そんなふうに自己陶酔しながらサウナを出ると、バルト海から吹く心地よい風が、火照った身体を冷ました。マーケット広場で観光客の食べ物を狙うカモメの鳴き声を聞きながら、椅子に座り、目を閉じた。
「本当にフィンランドに来たんだなあ。」
その後は、バルト海にダイブしてみた。想像と違い、水は濁っていて汚かったが、充実感に満たされた。温水プールで地元のおばあちゃんと泳いだり、ハリーポッターにそっくりな人を見つけたりした。地元の人と旅行客を繋ぐ、そんな施設だった。
サウナを終え、ロンケロを飲んだ。物価が高いので1000円くらいしたと思う。それは間違いなくフィンランドの味だった。